大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和27年(行)24号 判決 1956年10月29日

原告 松本時寛

被告 鳥取県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「原告所有の鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地十一坪八合に対し被告が土地区画整理の施行としてなした昭和二十七年八月十四日発管第四百七十九号換地予定地指定通知並に原告先代松本勝次所有名義の鳥取市今町一丁目二十八番の四・一坪、同番の五・三合四勺、原告所有の同番の一・二十四坪九合六勺の各宅地に対し被告が土地区画整理の施行としてなした昭和二十七年十月三十一日発管第五百七十六号換地予定地指定通知による各換地予定地指定処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地十一坪八合並に同所二十八番の一宅地二十四坪九合六勺を各所有し、原告先代松本勝次は同所二十八番の四宅地一坪、同所二十八番の五宅地三合四勺(以上いずれも土地台帳地積)を各所有していたところ、右勝次は大正十一年七月六日死亡し、原告は家督相続により、右土地を取得し、所有権者である。

二、被告は鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行者として区画整理の施行に当り、前記鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地に付昭和二十七年八月十四日発管第四百七十九号換地予定地指定通知により、同所十坪を又その余の土地については昭和二十七年十月三十一日発管第五百七十六号換地予定地指定通知により、同所二十五坪を、それぞれ換地予定地として指定し実施した。

三、然るに右各換地予定地はいずれも昭和二十七年四月十七日現在の土地台帳地積に依り指定されているが鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地の実測地積は十九坪五合三勺にてその差は七坪七合三勺又同所二十八番の一、四、五の各宅地の実測地積は合計三十四坪七合二勺にてその差は八坪四合二勺でそれぞれ実測地積の方が多い。従つて前記被告の指定処分の実施により右差額の坪数計十六坪一合五勺は何等の正当の理由なく、所有権を収奪された。本来換地予定地は従前の土地の実測地積を基準として指定さるべきであるのにこれを無視して著しく現地の地積と異る土地台帳地積によつて指定するのは公共事業の名による財産権の不法侵害で違法処分である。

四、次に鳥取市今町一丁目二十八番の一、四、五、の三筆は合体して、原告の営業店舖兼住宅の敷地に使用し、この地は今町本通と太平線通りの両方に面し、今町本通方面は間口約三間、太平線通方面は間口約六間二分でこの両者を連続する平行線は奥行外側十四間内側七間いずれも店舖に使用できる格好の宅地である。これに対する換地予定地は太平線通方面において間口四間、今町本通方面において間口二間四分で、この奥行の相接する部分において狭まつているため、今町、太平線両面とも店舖の建築が不可能な状態にあつて、著しく土地の利用価値を減損されている。更に今町一丁目三十六番の一宅地は瓦町六本交叉点に面し、間口約七間七分、行徳通りに面し、間口五間奥行九間半を有する角地で利用価値の高い宅地であるのに換地予定地に指定された土地は交叉点面には殆んど間口を与えられず、行徳通りに面して奥行が西に行くに従い狭められ、利用価値は半減し著しく公正を欠いている。

以上はいずれも取扱基準である鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程第五条第十四条に違反する違法な処分である。

五、右施行規程は耕地整理法に基いて認可を得たとして被告が公布施行しているが耕地整理法は既に廃止されて土地改良法に改められて居り、施行規定も土地改良法に基いて認可を得なければ無効であり、右規程に基いてなされた換地予定地指定処分も無効である。

以上の理由により換地予定地指定の取消を求めると求べた。

(立証省略)

被告代理人は主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、第一項、第二項は共に争わない、第三項中指定処分が土地台帳地積によりなされたことは認めるが、実測地積と土地台帳地積との差は不知、その余は否認する。第四項中換地予定地指定の結果、原告主張のような形状になつたこと、今町一丁目三十六番の一は指定前角地であつたこと並に指定後の地形は認めるが、その余は否認する。指定地は原告の承認を得ているもので、従前よりも格好良く、利用価値も増加している。なお、耕地整理法第六条の規定により、形状の不当については異議を述べることはできない。第五項は否認する。と述べた。

(立証省略)

理由

原告は鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地十一坪八合並に同所二十八番の一宅地二十四坪九合六勺を各所有し原告先代松本勝次は同所二十八番の四、宅地一坪、同所二十八番の五、宅地三合四勺(以上いずれも土地台帳地積)を各所有していたところ、大正十一年七月六日死亡し、原告は家督相続により右土地を取得し所有権者であり、被告は鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行者でその区画整理の施行に当り、区画整理地区内に存する前記鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地に対し昭和二十七年八月十四日発管第四百七十九号換地予定地指定通知により、同所十坪を、同町一丁目二十八番の一、四、五の各宅地に対し昭和二十七年十月三十一日発管第五百七十六号換地予定地指定通知により同所二十五坪を、それぞれ換地予定地として指定し実施したこと、指定処分は昭和二十七年四月十七日現在の土地台帳地積に基いてなされたこと、指定処分の結果、今町一丁目二十八番の一、四、五の各筆の合体した地形は太平線通り方面において、間口四間、今町本通り方面において間口二間四分となり、奥行の接する部分において狭まつていること、同町一丁目三十六番の一の宅地は行徳通りに面して奥行が西に行くに従い浅くなり、交叉点側の間口が狭くなつていることについて、当事者間に争いのないところである。

先づ被告代理人は耕地整理法第六条の規定により異議を述べることはできない旨主張するのであるが、右規定は現行法の下で取消訴訟を制限するものと解する余地がないばかりでなく、都市計画法第十二条第二項によると都市計画区域内における土地区画整理に関し別段の定ある場合を除くの外耕地整理法が準用されているのであるから、都市計画法第二十五条、第二十六条があるので耕地整理法第六条の規定は準用されない故理由がない。

次に原告は換地予定地指定処分は実測地積に基いてなさるべきであるのに土地台帳地積に基いてなしたのは違法で、これが為、鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地につき七坪七合三勺、同所二十八番の一、四、五宅地につき八坪四合二勺は何等正当の理由なく所有権を収奪されたことになると主張するので検討するに、土地台帳制度の設けられた趣旨と本件区画整理の如く面積、筆数の極めて多大(成立に争いのない乙第一号証参照)なるものにつき実測地積に基いてなすことの困難性とを考慮すれば、換地計画が土地台帳地積に基いてなされることも已むを得ないものと云うべく、その結果受指定者の権利を不当に侵害する場合は個別的に金銭的清算の方法により救済されるべきであるし(耕地整理法第三十条、鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程第十五条参照)その不当の程度が著しく金銭的清算によつては救済され得ない場合にはその理由により指定処分の取消を求める道もあるわけで、土地台帳地積に基いてなされてもそれだけで指定処分が違法とは云えないから理由がない。

次に原告は指定処分により、いずれの土地も従前に比較して、間口が狭められ、地形も不整形となり、或は交叉点に面する部分が減少し、ために店舖の建築が不可能なところを生じその利用価値は著しく減損されたので、鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程第五条、第十四条に違反すると云うのであるが、当事者間に争いのないところと検証の結果(一、二回共)とを綜合すると鳥取市今町一丁目三十六番の一宅地十一坪八合(土地台帳地積)の指定処分前の形状は略三角形をなし、その一辺は行徳新道に面し、他の一辺は交叉点に面する角地であること、指定処分後は行徳新道に沿うた略矩形をなし、行徳新道に面する間口は従来よりも増加したが交叉点に面する間口は相当程度に減じたこと、同所二十八番の一、四、五の宅地計二十六坪三合(土地台帳地積)の指定処分前の形状は今町通りと太平線通りに間口を有する略矩形をなし、太平線通りに面する間口が幾分広くなつていること、指定処分後は従前と略相似的な形を有するも両面の間口は減じ、奥行の中間にくびれた箇所を生じたことが認められ、又成立に争いのない甲第七号証により成立の認められる甲第四号証の一、二によれば、今町一丁目三十六番の一の実測地積は十九坪五合三勺、同所二十八番の一、四、五の合計実測地積は三十四坪七合二勺であると認められ、指定処分により指定された予定地が三十六番の一は十坪、二十八番の一、四、五は合計二十五坪であることは当事者間に争いのないところである。

これに対し被告代理人はいずれも指定につき原告の承認を得ている旨主張するも、その点は兎に角として、以上の事実によれば指定処分を受けた各土地は従前に比し、形状、面積につき、不便を生じたことは窺い得るも、金銭的清算の域を越え、違法で取消されるべきであるとは認め得ない。従つて此の点に関する原告の主張も理由がない。

更に原告は廃止された耕地整理法に基いて鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程が認可され、被告は右規程により指定処分をなしているから無効であると主張するが土地改良法施行法第四条により都市計画法第十二条第二項によつて準用される限度において、耕地整理法の規程はなお有効に存続していたと解されるから理由がない。

よつて、原告の請求は失当であるので棄却することにし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 浜田治 矢崎健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例